2020年秋季低温工学・超電導学会 セッション報告

12月8日(火)
A会場

HTSコイル 1A-a01-06 座長 王 旭東

参加人数は、現地会場が30人弱、Web会場は40人程度であった。
1A-a01 丸山(東北大): 宇宙機推進装置の開発を目指した多積層REBCOコイルの軸方向圧縮応力と磁気モーメントに関する数値解析評価であった。コイルのみの
補強なしに対して、提案された梯子型補強構造により磁気モーメントの若干の向上が見られた。質疑では、解析結果と目標磁気モーメントとの関係や、コイルの許容
圧縮応力について議論された。解析結果の磁気モーメントはまだ目標値に達していないとのことである。
1A-a02 神戸(豊田高専): T-A法によるHTSバルクの磁束密度解析について報告された。数値解析は、Magnet7.9とVBScriptを用いて行われた。解析結果は、メッシュ
分割サイズによる計算精度が検討された。ただし、バルク半径方向のメッシュ分割はすべて一様のサイズで行われている。質疑では、バルク表面電流を考慮した非均一
のメッシュ分割について検討することが有効という提言があった。
1A-a04 今川(NIFS): 液体水素浸漬冷却の5 T級HTSコイルに関する設計、試作、安定性評価の報告であった。液体窒素中において、Bi2223テープ線材で試作した
ダブルパンケーキコイルの臨界電流測定が行われた。1個の試作コイルで劣化が見られたが、安定性に影響のない程度ということであった。質疑では、電磁力に対する
コイル補強や、劣化の程度と範囲について議論された。
1A-a05 植田(岡大):無絶縁REBCOコイルのテープ内遮蔽電流とターン間結合電流の数値解析に関する報告であった。ケースによっては、ターン間の結合電流の減衰が
顕著であるという結果が報告された。質疑では、コイルのインダクタンス分布が電流減衰に対して主に影響しているというコメントがあった。
1A-a06 大澤(岡大): 人指用小型MRIのためのHTSコイル設計について、分散型遺伝的アルゴリズムによる解析評価の報告であった。3 Tと10 ppmを目的関数として、
使用線材量が最小となるように軸方向に分割した2領域のコイル配置最適化が行われた。また、コイル配置決定後に電流値のパラメータ評価も行われた。質疑では、コイル
配置と電流の最適化を同時に行ことが必要というコメントがあった。


HTSマグネット 1A-p01-06 座長 柳澤 吉紀

1A-p01:淡路(東北大)らは、25 T無冷媒超伝導マグネットを30 Tにアップグレードする計画の進捗を報告した。内層コイルを、Bi-2223コイルからREBCOに
入れ替えて磁場を高くする。2枚のREBCO線材を共巻きすることで、部分劣化が生じた場合でも運転ができるロバストREBCOコイル方式を採用する。
1A-p02:藤田(フジクラ)らは、人工ピン入りREBOC線材のエポキシ含浸コイルのフープ応力の試験結果を報告した。最大608 MPaのフープ応力(絶縁を除いた
線材断面積換算のBJR)まで通電し、巻線内接続部に劣化が確認された。接続部以外は劣化無し。
1A-p03:阿部(東北大)らは、30 T無冷媒超伝導マグネットで採用されるREBCO線材2枚共巻方式について、局所劣化と、コイルとしての通電特性の関係を実験的
に示した。局所劣化があっても、良好な通電特性が得られる。
1A-p04:植田(岡山大)らは、巻線・冷却・励磁過程を考慮した高磁場REBCOコイルの応力/ひずみ分布の数値解析を報告した。素線絶縁された非含浸コイルでは、
遮蔽電流によってフープ応力が大きく増大するが、無絶縁(NI)非含浸コイルでは、この効果が抑制されることが示された。
1A-p05:徳永(岡山大)らは、無絶縁(NI)の高磁場REBCOコイルにおいて、コイル外層の補強構造が、遮蔽電流応力を含めた応力を抑制する効果を詳細に数値
解析し、報告した。
1A-p06:水野(鉄道総研)らは、磁気浮上式鉄道用REBCO磁石におけるエポキシに代わる含浸材として、低粘土熱硬化性樹脂のTELENE1800の極低温熱収縮率を
報告した。フィラーを入れることで、銅やステンレスに近い収縮率が得られる。


安定性・保護 1A-p07-09 座長 鈴木 研人

「1A-p07: 羅 (京大)」本研究は、実際のアプリケーションを想定したクエンチ保護プロセス(電圧閾値検出後にクエンチ検証時間を加算し、ある時定数を模擬した電流関数に
よる遮断)によって、CORC導体銅コアへの分流の影響について、セットアップを変えながら評価を行ったものである。今後の計画として、銅コアへの分流時に接続端子の影響
を切り分けるための改善策を取り入れた試験を予定している。
「1A-p08 : 水野(鉄道総研)」REBCOコイルの線材剥離の検討を容易にすべく、T字型剥離試験およびたがね試験による再現試験が提案された。エポキシ樹脂を用いた場合
と熱可塑性樹脂を用いた線材のモックアップを用意し、上記再現試験後のIc測定を実施。そして、過去に製作したコイル通電試験との比較を行う事で、再現試験の妥当性を確認
する事ができた。
「1A-p09:泊瀬川(東北大)」REBCOコイルのクエンチ保護の新たな手法として、NbTi素線をセンサーとして用いる手法が提案された。実現性の評価のため、銅比の異なる2種の
素線を用い、外部磁場を変えながらセンサーとしての機能が評価され、早期クエンチ検出の可能性を明らかにした


B会場

HTS線材特性(1) 1B-a01-06 座長 小田部 荘司

1B-a01:土屋(KEK)は、幅広い温度磁場領域でのREBCO線材の臨界電流特性を少ない測定実験結果から推測できるかどうかを実験的に調べた。液体窒素および
液体ヘリウムでは4 mm幅の試料を使い、その他は発熱を避けるために50 mmのブリッジで通電法により臨界電流を測定した。また比較のためにSQUIDを用いた磁化法
で臨界電流密度を評価した。両者の結果は高温を除いて一致している。これはn値が高く、高温では電界の違いであると説明した。
1B-a02:土屋(KEK)は、市販されている人工ピンを含んでいるREBCO線材について18 Tソレノイドマグネットを使って臨界電流を評価した。測定した線材は、SuperPower,
Fujikura, Shanghai SC, SuperOxから数種類を含んでいる。以前報告した人工ピンを含んでいない線材の結果と比較すると4.2 KではIcは3倍以上向上していることが分かった。
1B-a03:土屋(名大)は、50 Tを発生できるパルス磁場中でREBCO線材の磁化測定を行ない、そこから臨界電流密度の磁場依存性を評価することを試みた。励磁速度が
5 kT/sと極端に大きくなるために、誘導される電界は 1V/mオーダーになり、これまで無視していたdD/dtの項を考慮して補正することで、ある程度の臨界電流密度の磁場
依存性を説明できるようになった。
1B-a04:岡田(東北大)は、REBCO線材の臨界電流密度の一軸ひずみ依存性に表れるダブルピーク構造について、ランダムピンであれば説明できることを報告した。なお
この講演は国際交流奨励賞応募者であるために英語での発表と質疑応答をおこなった。質問では、複数のピン止め中心が含まれている場合にどのようになるかなどがあった。
1B-a05:王(京大)は、多芯化高温薄膜超伝導線材において結合損失を低減する方法として、磁場に対してループ面が小さくすることを提案し、実際に複数の試料について広い
周波数領域での損失測定を行なった。その結果、理論で検討したような実験結果が得られており、結合損失を低減できることを示した。
1B-a06:村本(京大)は、導電性中間層を用いたYBCO線材のクエンチ発生時の電流回避挙動の解析を商用の有限要素法ソフトにより評価した。超伝導消失領域および導電性
中間層の厚さを変えた場合についての結果は非常に適切であった。実験結果との比較について望まれる。


磁気分離 1B-p01-02 座長 秋山 庸子

本セッションでは、磁気力制御を用いた物質の新たな分離・回収の手法に関する基礎的検討について2件の発表が行われた。いずれも従来の開放勾配型磁気分離
(OGMS)、高勾配磁気分離(HGMS)の課題を解決すべく、新たな観点からの磁気力制御法を提案するものである。発表件数は少ないものの、活発な議論が行われた。
1B-p01:三島(福井工大)の発表では、淘汰管分級に磁気分離法を組み合わせ、無重力状態の粒子に磁気力のみを作用させることで、低磁場でも常磁性体を分離
する手法について報告された。適用可能な常磁性体の種類や粒径、分離装置の構造と分離物の回収方法について質疑が行われた。
1B-p02:西嶋(福井工大)の発表では、ローレンツ力を用いた海水中のマイクロプラスチックの分離方法の基礎実験と、超電導磁石を用いたシステム設計について
報告された。電極の種類や電流値を含めた磁場中での電場の印加方法、マイクロプラスチックの分離速度について質疑が行われた。



核融合(1) 1B-p03-08 座長 菅野 未知央

本セッションでは、量研機構が開発を主導しているITER TFコイルに関して6件の発表があった。
小泉から(1B-p03)は、日本の貢献のうちTFコイル2機、コイル容器13機の製造が完了していることが報告された。実機製造の実現までに解決された多くの課題について、情報
共有のために詳細を是非技術レポートとして発表してほしいとのコメントがあった。
諏訪から(1B-p04)は、熱処理後のNb3Snコイルをラジアルプレートに挿入する上で、導体にかかるひずみを0.023%以下に抑える技術について報告された。
井口、中平から(1B-p05, 07)は溶接における変形や部分溶け込み溶接の欠陥部評価について報告された。部分溶け込みとなる欠陥の発生頻度はコイル何基かに1~2箇所と
少ないとのことであった。本コイル製作において溶接技術の重要性を改めて認識させられる発表であった。
梶谷、中平から(1B-p06, 07)は磁場性能に影響する電流中心線(CCL)の位置を制御しながら、コイル組み立てを行う手法について紹介された。いずれの発表においても、
非常に厳しい公差を満足するために製造技術が極限まで高度化されており、巨大建造物であるTFコイル製作の難易度の高さを再認識させられる内容であった。


核融合(2)・加速器(1) 1B-p09-13 座長 諏訪 友音

1B-p09:村上(量研) JT-60SAの組み立ては2020年3月に完了し、運転開始に向けての超伝導コイルへの通電試験を実施していることが報告された。すべてのコイルの超伝導
転移が確認され、今後、実機運転を模擬した通電試験の計画とクエンチ検出システムの調整方法について説明がなされた。
1B-p10:夏目(量研) JT-60SAのヘリウム冷凍機システムの報告がなされた。シートリークが確認されたが、適宜交換を行い対処し、ヘリウム精製運転を予定よりも早く実施でき、
超伝導コイルの冷却が完了したことが説明された。
1B-p11:三戸(NIFS) 核融合炉に適用可能な大電流HTS導体(FAIR導体)の開発について報告した。ジャケット中にREBCO線材を積層した導体に捩じりを加えることで電流分布と
機械特性の一様化を図ることができ、ジャケットの溶接条件を見直すことによって捩じりを加えた際のIc劣化を抑えることができることを示せた。
1B-p12:柳(NIFS)次期LHD用である20 kA級HTS導体の開発成果について報告がなされた。製作した導体の77 Kにおける臨界電流は計算値とおなじ4000 Aであり、製作方法に
問題がなかったことが示せた。また、昇温再冷却を繰り返しても臨界電流の低下は認められず、今後1000回以上の通電試験を行うことが説明された。
1B-p13:白井(早稲田大学) REBCO線材を用いた無鉄心サイクロトロンの磁場安定度の解析について報告された。励磁する際には、電流の最大値まで通電してから減磁した方が
磁場安定度が高いため、目標電流値から一度オーバーシュートさせた方が高い磁場安定度が得られることが示された。


C会場

デバイス(1) 1C-a01-06 座長 日高 睦夫

1C-a01:産総研馬渡氏から斜め磁場中に置かれた十字型ジョセフソン接合の特異な臨界電流特性に対する理論検討結果が報告された。縦方向磁場成分を増加させると
横磁場による干渉パターンが大きく変化し、しかも縦方向磁場成分が量子磁束の偶数倍が奇数倍かによってその効果に大きな相違が見られた。実験による実証が待たれる。
1C-a02:NIMSの高野氏からBi-2212固有ジョセフソン接合の形成方法として最も簡便だと思われるウイスカ十字接合からの約700 GHzの発信観測の報告があった。また、
ウイスカそのものがアンテナのエレメントとして機能することから指向性を持つ発信素子が実現できる見通しが指摘された。
1C-a03:埼玉大の明連氏が、生体試料中に導入された蛍光物質からの中赤外領域の光子数をカウントする目的で作製したNbN集中常数力学インダクタンス検出器の検討
結果を報告した。作製した12個の検出器中11個から2.18 GHzから4.18 GHzの範囲で共振ピークが観測された。今後NbN膜厚調整により超伝導転移温度を制御し、中赤外
の単一光子検出を目指す。
1C-a04:横国大の野田氏は、2接合SQUIDを多数並列に並べ、それぞれのSQUIDの臨界電流を外部から印加する制御電流によって調整することにより、外部磁場に対する
全体のしきい値特性をコントロールできることをシミュレーションにより示した。この回路を用いて高速フーリエ変換を行うことを目指している。
1C-a05:横国大の高橋氏から断熱型量子磁束パラメトロン(AQFP)回路の問題点であるゲート間配線の効率化を目指した発表があった。ストリップライン型のゲート間
配線を現在のwall型の積層コンタクトから一定間隔で配置したpillar型のコンタクトで置き換える提案である。面積削減は期待できるが、配線インダクタンスの増加と
シールド効果の減少という課題もある。
1C-a06:横国大の田中氏はAQFP回路の自動設計ツールを研究している。これまで遺伝的アルゴリズムの導入などにより設計効率化を行ってきたが、今回は水平方向の配線
幅を可変とすることによる設計効率化の新たな指標の検討を行った。適応度関数をいくつか定義し、その違いによる結果や計算時間について議論した。


デバイス(2) 1C-p01-05 座長 田中 雅光

デバイス(2)のセッションでは、5件の発表があり、オンラインと会場を合わせて25名ほどの参加があった。
1C-p01:三上(豊橋技科大)らは、高温超伝導体YBCOを用い、力学インダクタンス検出器(MKID)の設計と開発を行った。可視光応答などの結果が報告され、今後テラヘルツ波
イメージングに向けて応用が期待される。
1C-p02:藤田(山梨大)らは、NMR装置のためのYBCO薄膜によるピックアップコイルの開発を報告した。4つの共振器を結合させ、サンプル領域におけるRF磁場の均一度を大幅に
改善することに成功している。
1C-p03:浅田(横浜国大)らは、超伝導デバイスによるデジタル回路である、単一磁束量子(SFQ)回路に局所磁場を加えることで、よりコンパクトな論理ゲートを実現し、メモリ応用に
向けデコーダの小型化の可能性を示した。
1C-p04:細谷(横浜国大)らは、SFQ回路の一部の信号線を直流電流で与えることにより、書き換えは低速だが高集積なメモリの実現を提案し、その応用として書き換え可能な回路の
コンセプトの実証に成功している。
1C-p05:和田(横浜国大)らは、SFQ回路によるFPGAの実現を目指し、シフトレジスタを使って複雑な配線の置き換えを検討した。制御のための回路が大きく途上ではあるが、半導体
とは異なるアプローチで回路を実現する試みは超伝導デバイスの特性を引き出すために重要なテーマと考えられる。


液体水素 1C-p06-09 座長 白井 康之

このセッションでは、4件の発表があった。まず「1C-p06:竹塚氏(大島商船高専)」より、4K-GM冷凍機の省電力化について発表があった。SHI製の2段GM冷凍機(1 W @4.2 K)
において、圧縮機2台(5 kW、1.9 kW)を取り換えて、ディスプレーサの速度をインバータで調整して冷凍能力を評価した。ディスプレーサを低速にすることで、作動ガス
の熱交換を良くし1.9 kWの圧縮機で4.2 K運転ができたと報告された。2件目は、「1C-p07:関光氏(大島商船高専)」より磁気冷凍による水素液化システム(AMR:40~20 K、
冷凍機:300~40 K)に組み込む1段GM冷凍機について、蓄冷材とディスプレーサの速度を変えて、高効率化に関して検討を行った結果の報告があった。冷凍能力32 W @40 K、
カルノー効率17%が第1段階の目標値としている。3件目は、「1C-p08:永廣氏(神戸大)」より液体水素タンク内部圧力の時間変化に関する実験結果報告があった。車載用
液体水素タンクを想定し、飽和状態・成層状態、蓄圧上限値(0.2, 0.4 MPa)をパラメータとして、充填・貯蔵における圧力上昇の時間変化を計測した。液体ヘリウムタンク
との相違について質問があった。4件目は、「1C-p09:福本氏(山本電機製作所)」より、大型タンク用のMgB2長尺液体水素液面センサーの開発について、発表があった。
センサー用にTcを下げるため、SiCあるいはC doped Bを用いて、0.3 ㎜径の~100 m長の一様なMgB2線材を製作し、マンガニンヒータを2 mmピッチで巻いて9 W入熱で直線性
の高い液面センサーとして働くことを確認している。臨界温度とヒータ入熱、圧力とヒータ入熱の制御やヒータあるいはセンサーの分割に関しての質問があった。


伝熱特性 1C-p10-13. 座長 岡村 哲至

1C-p10:中川豪(大阪府大):パルス強磁場と断熱消磁を組み合わせて、50 T、0.1 K程度の複合環境を作ることを目指している。断熱消磁部からの冷熱を磁場印加空間まで伝える
被覆銅細線束での渦電流発熱について、熱モデルを用いた解析結果が報告された。
1C-p11:高畑一也(NIFS):超伝導機器において局所的に温度上昇が起こったことを、圧力計1個で検出することを目指している。超伝導機器内に細管を設置し、細管内の突沸現象
について観測された温度変化や圧力変化から考察された。
1C-p13:高田卓(NIFS):飽和超流動ヘリウムの急縮小流路の奥で発熱があった場合の間欠沸騰現象について明らかにすることを目的としている。沸騰の様子のビデオ画像や温度
変化の測定結果が発表され、飽和蒸気圧曲線との関係について考察された。


P会場 ポスターセッションI

超電導コイル 1P-p01-05 座長 藤田 真司

1P-p01:今村(日立)は筑波大学プラズマ研究センター向けに、室温ボアφ900 mmの伝導冷却LTSマグネットを2台作製し、その初期特性を報告した。冷却や励磁は問題なく、磁場分布
も設計値通りであった。
1P-p02:銭(東大)は、薄板近似を用いた三次元の電磁界・熱連成解析ツールを作成し、限流器やREBCOコイルのクエンチ挙動について解析した結果を報告した。
1P-p03:山田(名大)は、無絶縁REBCOコイルの励磁遅れ問題を解決するため、金属-絶縁体(M-I)転移物質の一つであるPYCCOをPLD法により薄膜形成する検討結果について報告した。
ハステロイ基板上に成膜したPYCCO膜ではM-I転移は確認できなかったが、石英基板上に成膜したPYCCO膜では3桁程度の電気抵抗変化が確認された。しかしながらPYCCOバルクの
ような明確な転移は観測されず、今後さらなる成膜条件検討が必要である。なお、韓国の研究グループで検討されているV2O3より、PYCCOの方がM-I転移温度がより低いというメリットが
あるとのことである。
1P-p04:宮本(岡山大)は、無絶縁REBCOコイルのターン間抵抗を測定する手法として、コイルに交流電流を通電する手法(AC法)に関する検討結果を報告した。交流周波数が10 Hzにおいて、
コイル径方向に流れる電流が支配的になることを確認した他、繰返し冷却によりターン間抵抗が減少することを報告した。
1P-p05:西川(岡山大)は、無絶縁REBCOコイルの外周に銅リングを配置し、コイルを径方向に圧縮する手法を提案した。銅リングにより、コイル最外周付近がクエンチした際の分流経路
を確保するとともに、コイルの機械的強度を向上させることを狙っている。今回の検討では銅リングの締め付けによってコイルの機械的変形やターン間接触抵抗の増加を抑制することが
できたが、銅リングへの分流は確認できなかったため、銅リングとコイルとの接触抵抗低減が今後の課題である。


HTS線材Jc分布 1P-p06-09 座長 田中 秀樹

「1P-p06:呉(九大)」から磁気顕微法を用いたBa122薄膜におけるJc-Tc分布の相関性が報告された。局所 Jc分布の温度依存性の取得に成功し、Jc分布とTc分布に相関があること、
膜中心部が比較的高い性能を有することが示された。
「1P-p07:鬼塚(九大)」からRTRSHPM、リール式走査型ホール素子磁気顕微鏡を用いた長尺REBCOテープ線材の局所 Ic評価について報告された。Ba122薄膜におけるJc-Tc分布の
相関性が報告された。大きな欠陥を有する位置において、Tapestarによる測定は4端子法との誤差が生じるが、RTRSHPMでは4端子法の実測値を再現できることが示された。
「1P-p08:田中(福岡工大)」から塗布熱分解法で作製されたREBCO薄膜線材の臨界電流密度分布と磁場中臨界電流特性について報告された。試料半面のJcが低く、高 Jc部と比べ
1/100程度のJcになっていることが示された。
「1P-p09:篠倉(福岡工大)」からREBCO線材の面内 Jc分布と磁場中 Jc特性について報告された。高Jc部は低Jc部と比べ40%程度高いJcを持ち、低Jc部では2.5~3.0 μm程度の析出物
が観察され、有効な超伝導領域が減少しているとの推察であった。


HTS線材 特性(2) 1P-p10-14 座長 鈴木 匠

1P-p10:森脇(福岡工大)らは、高分解能X線CTを用いて超伝導接合部の空隙を適応二値化という手法を用いて高い精度で抽出できる事を報告した。これにより接合の断面積を求める
事ができるようになるとの事であった。
1P-p11:一野(愛工大)らは、基板自己加熱方式によるPLD法を用いたYBCO厚膜線材を、基板温度をフィードバック制御及び基板設定温度パターンの導入により作製し、膜厚8 μmで最大
Ic=1314 A/cm-w(77 K, s.f.)となる事を報告した。
1P-p12:土屋(名大)らは、表面レーザー加熱法によるYBCO厚膜線材を段階的に温度を上げる手法により作製した。表面レーザー加熱法を用いることで 厚膜時のa軸配向粒が低減し、
膜厚8 μmで最大Ic=1500 A/cm-w(77 K, s.f.)となる事を報告した。
1P-p13:成嶋(核融合研)らは、直線形状WISE導体の通電試験を行い、冷却サイクルを繰り返すことでは導体は劣化せず、冷却回数が増加するとクエンチ到来時間が延長するような
振る舞いがある事を報告した。
1P-p14:閻(九工大)らは、様々な磁界方向における超伝導線材中の3次元量子磁束構造のシミュレーションを行い、低磁場の並行磁場方向では面状ピンが高いJcを示し、垂直磁場近傍
では球状ピンが高いJcを示す事を報告した。


計測・基礎・理論 1P-p15-18 座長 仲井 浩孝

1P-p15:TRITRAKARN(東工大)らは、核磁気共鳴の測定感度を向上させるために高温超伝導(HTS)アンテナおよび磁場掃引型磁石を組合せた測定法を導入した。アンテナは
送受信分離型で、送信部は銅アンテナ、受信部はHTSアンテナとしている。HTSアンテナに対して最適な送信アンテナ形状を決定するために、遺伝的アルゴリズム(GA)を導入し、
これにより信号強度を向上させることができた。HTSアンテナ自身の磁性がNMR計測に及ぼす影響については、アンテナの磁化が問題になるのは溶液NMRであり、今回の研究で
想定している固体NMRでは静磁場均一度の影響をほとんど受けない。
1P-p16:久保(KEK)は、超伝導機器の動作原理や性能に関わる超伝導理論として、BCS理論に基づく複素伝導率や対破壊電流、非線形力学インダクタンスのミクロな理論を展開し、
それらに対する温度やバイアス電流、サブギャップ状態密度の影響を計算した。この計算は全温度領域および対破壊電流以下の全電流値で行った。また、この計算はs波超伝導体に
対してのものであるが、d波についても計算可能である。ただし、コードの大幅な修正が必要である。
1P-p17:佐藤(神戸大)らは、ひずみゲージを貼り付けたGFRP管内の圧力変化によるひずみを測定することにより、液体水素用流量計としての利用を考案した。GFRP管を液体窒素で
冷却し、ヘリウムガスでGFRP管内の圧力を変化させた場合のひずみを測定した。また、管内でのヘリカル流による遠心力で圧力が変化する場合のひずみの変化を液体窒素、液体水素
の場合について計算した。ヘリカル流を起こすためのらせん状板について、ひずみを大きくするための構造などの検討が、流量計としての利用するための今後の課題となっている。
1P-p18:平野(NIFS)らは、高温超伝導コイルの冷却に、発生する磁場と磁気冷凍技術を組合せる技術の開発を始めた。磁気作業物質に磁場の変化を与えるために、磁気遮へい体の
挿抜を繰り返す方式を採用し、積層した高温超伝導薄膜が磁気遮へい体として利用できるか検討を行なった。磁気遮へい体の透磁率と飽和磁束密度が磁気遮へい効果に与える影響に
ついての議論が行われ、十分な遮へい効果を得るためには遮へい体を厚くして遮へい空間を小さくせざるを得ないため、装置の小型化には遮へい体として超伝導材料を使うことの妥当性
を確認した。




12月9日(水)
A会場

加速器応用 2A-a01-06 座長 水野 克俊

2A-a01:土屋(KEK) SuperKEKBのルミノシテイー向上用REBCO六極マグネットの開発状況についての概要報告。ノーマル六極は既に試作・通電試験済みであり、ノーマル製作時の
ノウハウを用いてスキューの製作も進めている。
2A-a02:藤田(フジクラ)ノーマル六極コイルの1個を用いてクエンチ試験を実施。実機よりも長いクエンチ検出時間での試験であったが、測定された最大温度は359 Kであり劣化は
確認されなかった。
2A-a03:王(KEK)上記ノーマルコイルのクエンチを3次元数値解析で再現。モデルは2層コイルのうち1層目外周のみで、周方向は1/2モデルとなっており計算負荷を抑えている。実験
結果を良く再現できており、モデルの妥当性が確認された。
2A-a04:曽我部(京大)ガントリーの高温超電導化を目指しており、遮蔽電流の影響を評価するために2極レーストラックコイルを用いた励磁試験と数値解析を実施。発生磁界の多極成分
は通電サイクルの繰り返し回数に依存していることが明らかになった。
2A-a05:菅野(KEK)CERN-LHC加速器の高輝度化アップグレートのためのビーム分離双極超電導磁石の開発を行っている。試作1号機(全長2 mのモデル磁石)では十分なトレーニング
効果が得られなかったものの、予備応力を110 MPa以上に上げることで大きく改善した。
2A-a06:鈴木(KEK)ビーム分離双極超電導磁石のLHC組み込みに向けた検証。磁石のシェル外周に配置されたマーカーをレーザートラッカーで測定することにより磁石座標系を構築
するとともに、回転コイルによる磁場測定に基づいて磁場中心を求めた。


回転機(2) 2A-p01-08 座長 川越 明史





B会場

A15線材 2B-a01-06 座長 斉藤 一功

「2B-a06:菊池(NIMS)」A15線材でコイルを作る際、React and Windを可能にするための手段として、極細線とその撚線を製造する技術を開発した。ジェリーロール法で製造したNb3Al単芯材
を外径50-30 μmまで伸線し、それを7本撚りにする。ここまで細くすると、曲げに伴う歪量を抑えられるため、従来とは異なる方法でコイルを製作できる。また、この方法はNb3SnやMgB2などにも
適用できるとのことである。化合物超電導体を実用化する際の弱点である、もろさを極細線化によって解決しようとする視点がユニークだと感じた。極細線の製造方法について質問があったが、
そこは秘密であるとの回答。
「2B-a04:淡路(東北大)」25 Tを30 Tにグレードアップするに際して、使用するNb3Sn線材の高強度化(250 MPa⇒300 MPa)を図るためにCuNb補強材の割合を増やした。またIcの低下を防ぐため、
ブロンズのSn濃度を14 wt%から15.7 wt%に増やした。これにより狙い通りの特性を実現した。質問では高磁場化に際してHTS線材の磁場発生を大きくすればよいのではとの意見もあったが、コストを
考えるとこちらの方が現実的との回答であった。HTSが開発されてからも、高磁場用Nb3nの開発が行われていることを考えると、HTSが広く使用されるためにはやはり価格の問題は大きな課題
であると感じた。
「2B-a03:伴野(NIMS)」Nb3Sn線材の高Jc化の方法として近年話題になっているHf添加Nbについての興味深い考察。線材を製作するうえではNb-Hfの加工強度が重要である。熱処理による
Nb-Hfの加工性の変化を結晶組織観察によって裏付けられている。Hf添加については期待が大きいが、量産時には線材加工性が重要になる。こうした点から、今回の報告は基礎的なデータと
なると感じた。


MRI・NMR 2B-p01-08 座長 和久田 毅

「2B-p01服部(三菱電機)」「2B-p02三浦(三菱電機)」REBCO-MRIの開発状況についての2件の報告。1/2サイズアクティブシールド型3T磁石では超電導特性劣化による抵抗が発生。解体・
補修、再組立てしたが完全には直らず。運転電流20 A、0.3 TでMR撮影を行った。劣化箇所はパンケーキコイル内部、パンケーキ間接続部など複数個所、原因調査中。3 T磁石、7 T磁石の
パンケーキコイル状態での歩留りは82%、88%と目標の90%に届かず。
「2B-p03西山(東北大)」オーバーシュート(OS)法と高温励磁併用による磁場安定化時間短縮の検討。運転温度より3 K上げた状態でOS法で磁場変動率を5 ppm/h以下に制御することにより、
短時間で1ppm/h以下に到達する。
「2B-p05板橋(東北大)」REBCO磁石の軸方向圧縮による特性劣化の検討。軸圧縮力100 MPaを超えると劣化が発生することを実験的に示すとともにそれを低減する磁石構造を提案。
「2B-p07武田(理研)」高強度Bi2223線材同士の超電導接続。残留接続抵抗が時間経過とともに小さくなる現象に対し、オーバーシュート法などにより遮蔽電流を抑制して計測してはどうかとの
コメントがあった。
「2B-p08大嶋(山形大)」1.3GHzNMRへの超電導プローブ適用可能性の検討。YBCO薄膜の表面抵抗を推定し、銅の表面抵抗の1/1000となることを示した。Q値の向上により大幅な計測感度
向上が期待される。一方、会場からQ値は超電導アンテナだけでなくサンプルからの誘電損失も考慮する必要があり、それによって制限される可能性があるとのコメントもあった。





C会場

鉄系・引張試験 2C-a01-04 座長 山本 明保

2日目午前の鉄系・引張試験セッションでは4件の講演発表があった。現地とオンラインからの発表・質問が混在していたが、オンライン対応を運営委員がサポートする体制であった
ため、セッションは円滑に進行した。
2C-a01: 原田(成蹊大)らは、BaZrO3ナノ粒子導入によるBaFe2(As1-xPx)2 [Ba122:P]薄膜の磁場中超伝導特性向上について報告した。PLD法によりMgO単結晶基板上に製膜した
BZO添加量の異なるBa122:P薄膜に対してJcの温度、角度依存性の測定を行った。磁束クリープの実験値と、理論的ピンニング力より求めたクリープフリーJcをもとに構築したJc解析
モデルによる計算値とは、よく一致することを示した。
2C-a02: 羅(東北大)らは、Ag/(Ba,K)Fe2As2テープの臨界電流密度異方性及びスケーリングについて報告した。銀シースPITテープ線材に対して、様々な温度、磁場下でJcの角度依存性
の測定を行い、35 K、低磁場下ではJcの角度依存性に異常がみられることを指摘した。また、有効磁場を導入することでJcのスケーリングを行い、異方性パラメータを見積るとともに、
Jcの角度依存性の起源に対する考察を行った。
2C-a03: 鈴木(東北大)らは、Ba1-xKxFe2As2テープ線材における臨界電流密度のヒステリシス特性について報告した。銀シース、または、銀/銅シースPIT法テープ線材に対して、
28 Tまでの平行磁場下においてJcの輸送測定を行ったところ、増磁過程と減磁過程とでJcn値のヒステリシスがみとめられた。この起源について、ビスマス系等の銅酸化物のヒステリシス
特性と比較考察を行った。
2C-a04: 長村(応用科学研)らは、室温および低温における超電導線材の引張試験方法の標準化の現状について報告した。講演前半では、5系統の複合超電導線材の臨界電流、
機械特性等の測定法に関する国際規格、JIS 規格について、国際IEC-TC90 委員会と国内TC90 委員会における審議の状況、とくにTC90-WG5 の活動内容が紹介された。講演後半では、
REBCOテープの室温における引張特性の国際ラウンドロビン・テストの結果が報告された。多機関での複数回の測定による多くのデータを活用することで標準偏差、不確かさのパラメータ
を評価し、どのような測定方法が最も信頼性が高いかを判定する考察過程と、国際標準化についての議論の状況とが紹介された。


冷凍機 2C-p01-08 座長 三戸 利行




P会場 ポスターセッションII

交流損失・分流 2P-p01-04 座長 松本 明善

「2P-p01:船越(鹿児島大)」はパワーエレクトロニクス応用を目指したHTSコイルの交流損失評価のために液体窒素蒸発法を用いた測定を行った。HTSサンプルに種々の条件下で通電し
高調波成分による交流損失への影響を調査し、基本波成分は計算値と一致しており、高調波成分における交流損失増加は電流振幅の2乗に比例することがわかったと報告した。
「2P-p02:岩田(東大)」はMgB2コイルに回転磁界を印加した場合の交流損失特性を明らかにするために、有限要素法による電磁界解析と測定装置の検討を行った。電磁界解析の結果に
基づいて製作した装置で冷却試験、回転磁界の測定、機械入力による交流損失の測定を行っており、温度が10 K, 20 Kで30 kHz未満では解析値に近い実験結果が得られた。それ以上では
温度上昇とともにJcの減少、母材の抵抗率上昇により交流損失が減少したことを報告した。
「2P-p03:李(京大)」はCORC線材に見られるようなCuなどの導体にCC線材をスパイラルに巻き付けた超伝導導体における交流損失に対して有限要素法を用いた解析を行った。その結果、
通電ロスや低磁場における磁化ロスにおいてよい一致を示したと報告した。
「2P-p04:曽我部(京大)」は銅分流複合マルチフィラメント薄膜高温超伝導線の開発を行っている。この導線は高温超伝導線の安定化と低損失化を目指した導体で、今回の報告ではクエンチ
解析による分流を解析できる解析手法の検討を行った。その結果フィラメント間の分流現象が重要で、モデル化する必要があることを報告した。


超電導・低抵抗接合(1) 2P-p05-07 座長 植田 浩史




電力応用(1)・回転機(1) 2P-p08-12 座長 平野 直樹

本セッションでは、積層した複数の単層超伝導コイルの電流分布、超伝導ケーブルの臨界電流測定の標準化に関する知見、ならびに埋込磁石同期モータへの超伝導バルク体の
適用に関する電磁解析についての3件のポスター発表があった。
2P-p08:尾花(NIFS)らは、多重単層型高温超電導コイルからなる2次コイルを集中定数回路でモデル化し、励起時における2次コイルの発生電圧を計算した結果、計算と実験
結果はよく一致した。コイル巻線ごとにインダクタンスが異なるが、接続抵抗によって2次コイルの電流分布を均一にすることが可能であることを確認した。
2P-p09:向山(古河電工)らは、超電導ケーブルの臨界電流の試験法の規格案を検討する中で、液体窒素で浸漬した後の時間がIcに影響することを明らかにし、規格としての
保持時間を設定するために必要となるデータを取得した。冷却保持時間として、導体層では90分、シールド層は40分の冷却が必要であることが明らかとなった。今後は海外
でもラウンドロビンテストを行う予定であるとのことであった。
2P-p11:三村(東大)らは、IPMSM(埋込磁石同期モータ) 回転子中のバルク超電導体の電磁的振る舞いを考察した結果を報告した。超伝導バルク体の有無で比較し、超電導体の
磁気遮蔽効果によって強い逆突極性が得られた。磁気遮蔽時におけるバルク超電導体内では端部の微小な領域のみ電流が流れることが報告された。


バルク応用 2P-p13-14 座長 元木 貴則

バルク応用のセッションでは、2件の発表が行われた。
2P-p13:石田ら(東大)はマルチシードのYBCO溶融凝固バルク体と永久磁石間の浮上力に関する解析結果を報告した。超電導体と磁石それぞれについて解析領域を分割し複数の
有限要素法の支配方程式を用いることで定量的な解析を可能にした。シングルシードバルクを並べるよりも、同サイズのマルチシードバルクを用いることでドメイン間の電流が寄与する
ために大きく浮上力が改善することを示した。
2P-p14:横山ら(足利大)らは、軟鉄ヨークの形状がパルス着磁による溶融凝固バルク磁石の捕捉磁場特性におよぼす影響について報告した。リングやディスク形状よりもクロス型の
ヨークでより優れた捕捉磁場特性を示し、クロスヨークのサイズを変えることで、単位重さあたりの総磁束量を増加させることも可能であることを示した。クロスヨークが優れる理由として、
着磁時の不均一な磁場が影響していると考えており、今後数値解析を通じて詳細を検討するということである。


核融合(3)・加速器(2) 2P-p15-16 座長 村上 陽之

2P-p15:尾花(NIFS)らは、REBCOを用いた大電流導体の通電試験時の磁場測定につ いて報告した。導体は多数のREBCOテープを積層し銅フォーマー内に埋め込んだ構造 である。
磁場測定の結果、10 kA通電では推定される電流中心は導体のほぼ中央であ り、各テープに均一に電流が流れていることを示している。一方で、低い電流域では電流上昇時と電流
降下時で電流中心位置が異なっていることの原因について質問があり、磁場測定を実施する前の試験履歴が影響した(遮蔽電流が残っていた)と考えていると回答があった。
2P-p16:三宅(岡山大)らは、REBCO導体を用いた空芯型サイクロトロンの構造解析結果について報告した。筆者らが提案しているYOROI構造を用いることで発生応力を低減できること
を示した。ヘリカル装置のREBCO導体の劣化原因について報告した。電流分布計算について、無絶縁コイルに対して集中定数回路で電流分布を求めることが適当であるか質問があり、
現状は簡易モデルとしてターン毎に一様な電流分布となっている。より正確な挙動を把握するため、今後ターン間の電流分布についても計算を考えているとの回答があった。また、応力の
許容値について質問があり、現状は引張応力600 MPa、歪0.6%を許容値として考えている。今後の課題として疲労などの実運転に向けた考慮も必要、との回答があった。




12月10日(木)
A会場

無絶縁コイル 3A-a01-07 座長 淡路 智

本セッションでは無絶縁コイルに関する7件の報告があった。
1A-a01:山田(名大)は、金属-絶縁体 (M-I)転移物質を新しいコイル保護として利用することを想定して、(Pr1-xYx)1-yCayCoO3(PYCCO)バルクとREBCO超伝導膜の接続において、通電電流
による発熱を利用して電気抵抗の変化を評価した。これに関しM-I転移温度やその電気抵抗の最適化について議論され、組成や厚みなどで抵抗値や転移温度の制御が可能と述べた。
1A-a02:津吉(早大)は、無絶縁コイルにおける層間抵抗と負荷率を変化させた際の発熱特性についてsimulation結果に基づいて議論し、いずれの場合も発熱は冷凍機の冷凍能力63 Wより
も十分小さく、層間抵抗が小さい程転流による発熱が支配的になるとした。
1A-a03:根本(早大)は、計算結果から、層間抵抗に最適値があり、小さい場合にはホットスポットが局在化して焼損リスクが高まることを示した。
1A-a04:宮本(早大)は、SMESを想定して2枚バンドル無絶縁コイルに関して、バンドルの効果により貯蔵効率を高めることができるとした。
1A-a05:北村(早大)は、層間の接触不良の影響を計算により調べ、20%以下の接触不良では、80%以下の負荷率でも安定通電が可能となるとした。
1A-a06:髙橋(上智大)では、1.3 GHz-NMRコイルに採用するレイヤー無絶縁(LNI)コイルについて、温度サイクルによる層間抵抗の変化について報告した。温度サイクルで層間抵抗が増大が
見られ、保護のために必要な10 mΩcm2の接触抵抗を得るためには、複数回のサーマルサイクルを経験させる必要があるとした。
1A-a07:村上(早大)は、無絶縁コイルの磁場安定度向上のためのオーバーシュート法について議論し、オーバーシュート後のホールド時間を入れることで、より磁場が安定化するとした。
これは、無絶縁コイル特有の磁場の遅れがホールドによって緩和するためとのことである。自己保護機能を有する無絶縁コイルであるが、接触抵抗の最適化が必要なことが分かってきたが、
その制御は容易ではなさそうである


電力応用(2) 3A-p01-08 座長 井田 徹哉





B会場

MgB2 3B-a01-03 座長 内藤 智之

本セッションでは3件の発表があった。
3B-a01:田中(日立) MgB2線材をリアクト&ワインドで用いる場合に重要となる曲げ耐性に対するMgB2フィラメントの残留圧縮ひずみの影響について報告した。比較的熱膨張係数の
大きいステンレスを構成材料として用いたところ、MgB2フィラメントに効果的に残留圧縮ひずみが印加され、臨界電流測定から曲げ耐性が約2倍向上することが示された。
3B-a02:須藤(青学大) MgB4を前駆体としてpremix-PICT拡散法で作製したMgB2バルク体に対するC置換効果(C添加源はMgB2C2)について報告した。C置換によって磁場中の臨界
電流密度(Jc)は向上するが、Cの実効置換量は熱処理温度750℃試料よりも800℃試料の方が大きいことに起因してJc向上も顕著であった。ただし、Cの実効置換量は800℃試料でも半分
程度であり、仕込量に対して低いことが問題点であることが示された。また、同様の製法による線材の作製にも着手しており比較的緻密な線材が得られていることが報告された。
3B-a03:小池(青学大) 市販のMgB2粉末にB粉末を加えた前駆体にMgを拡散させる部分拡散ex-situ法で作製されたMgB2バルク体の臨界電流特性に対するC置換効果について報告
した。C添加源はMgB2C2およびC10%添加のMgB1.8C0.2であったが、これまでの報告とは異なりMgB1.8C0.2を炭素源としたMgB2試料の磁場中臨界電流密度の方がMgB2C2を添加源とした
試料よりも高いことが示された。また,還元温度でのJcの比較が必要ではないかとの指摘があった。


HTS線材 臨界電流 3B-a04-08 座長 井上 昌睦




HTS線材 作製・特性 3B-p01-05 座長 岡田 達典

3B-p01:佐藤(青学大)らは、DI-BSCCO線材に対する低酸素雰囲気下での後熱処理および超電導特性について報告した。低酸素圧熱処理によりPbの固溶量が増え更なる特性向上
が期待できるとのことだが、Pb固溶量をどこまで増やせるかは現時点では不明のようである。また、磁化Jcには系統的な変化は見られず、40 Kのデータのみ妙にバラついている
点が気になったが、今後更なる検討が必要とのことであった。
3B-p02:下山(青学大)らは、Bi2223焼結体に対する低酸素分圧熱処理によるキャリア制御について報告した。Pb固溶量の増大とPb3221異相の抑制が見込め、やや過剰ドープ領域
(Tcは下がるものの、有効質量異方性が低減し磁場中通電特性向上が期待される)の実現が提案された。市販線材への応用可能性について今後の報告を期待したい。
3B-p03:小澤(東海大)らは、市販GdBCO線材をAg管内壁に沿わせたものを種結晶としたYb123丸線の作製を報告した。Agの融点を超えぬようYbが用いられたが、Yb123では高い
通電特性が得られないことが質疑で指摘され、「特性向上に向けては人工ピン導入が必要ではないか」との提案があった。
3B-p04:小島(東海大)らは、3Bp-03と同様にRE123系丸線作製の試みを報告した。Ybを用いる代わりに、Ar下での熱処理によりY123系の融点を下げる方策が取られ、また人工ピン
としてY211の導入も試みられた。現状、作製した丸線中心部の空隙が目立つ。また、超伝導特性はデータ整理中とのことで、続報に期待したい。
3B-p05:町(産総研)らは、半田バスで2枚拝み合わせ接続したRE123線材の曲げ通電特性を報告した。RE123層が応力中立線付近に来るため、曲げ直径15 mm程度まではIc(77 K, s.f.)
の低下は殆ど見らず、8 mm程度では大きく低下した。また、数回転であれば線材を「ねじる」ことも可能とのことで、特異な配置での物性測定などにも転用できるかもしれない。




C会場

超電導・低抵抗接合(2) 3C-a01-04 座長 伊藤 悟

3C-a01 寺西(九大): GdBCO線材超電導接合において追加堆積する前駆体の厚さと接合面積との関係、および前駆体の結晶構造の分析結果を報告した。前駆体厚さ増加にともない
非晶質の割合も増加し、これが加圧・熱処理によって、変形・結晶化することで接合面積を増加させることを示した。
3C-a02 熊倉(NIMS):7芯MgB2線材超電導接合で、接合する2つの線材のフィラメントの位相ずれが臨界電流に与える影響を評価し、ずれの有無に関わらず線材臨界電流の50%程度を
実現できることを示した。接合部でのバリア材の破壊で発生するMg拡散を抑えることが今後の課題となる。
3C-a03 小林(NIMS):電流減衰法を用いてBSCCO線材超電導接合の接合抵抗の温度・磁場依存性を評価した。接合部の臨界電流に対して、高電流負荷率では10-11 Ωと抵抗が高く
見積もられるが、低負荷率では10-14 Ωが得られ、良好な超電導接合が実現できていることを示した。
3C-a08 鍾(九工大):YBCO線材接合の臨界電流のラップ長・ラップ位置ずれ依存性を有限要素法で評価し、接合面積が増えるほど臨界電流が上昇する結果を得た。接合部での電流密度
減少により、電圧タップ間で接合部領域の割合が増えるほど、臨界電流が高く見積もられるのではないか、という質問があった。


超電導・低抵抗接合(2) 3C-a05-08 座長 筑本 知子

本セッションにおいては、以下の4件の発表があった。
3C-a05:小黒(東海大)らは、PbBiはんだを用いた異種超伝導接続についてREBCO線材ではゼロ抵抗は得られたものの臨界電流が極めて低い(0.01A)原因について、PbBi/REBCO界面
付近のEPMA組成分析を詳細に行い、BaがPbBi側に、またPbとBiがREBCO側に検出されること、また界面からのBaの拡散距離が日とともに時間変化することを見出し、相互拡散により超伝導
特性が劣化している可能性を指摘した。
3C-a06:伊藤(東北大)らBSCCO及びREBCO線材のインジウム接合について、接合抵抗に対する線材表面の研磨やインジウム箔の酸洗い等の効果を検討した結果について報告した。
REBCOにおいては、酸洗いにより接合抵抗は10 nΩcm2低下し、界面観察では、酸化層および空隙発生の抑制がみられた。酸洗いによる接合抵抗の低減はBSCCOでも見られたが、BSCCO
では接合のために120℃に加熱する必要があり、これによりIn2Agの発生および空隙の生成が見られた。
3C-a07:木須(九大)らは音波振動(15 kHz)によりREBCO線材のCu安定化層同士を接合する手法について条件検討結果を報告した。印加圧力依存性では35J/cm2において接合抵抗が最低と
なり、また音波のピークパワーが700 W/cm2を超えると線材にダメージが発生することが確認された。そのためピークパワーは700 W/cm2に抑制して条件最適化を行い、450 J/cm2以上の
投入エネルギー密度で30 nΩcm2の接合抵抗が再現良く得られることを見出した。
3C-a08:伴野(物材機構)らは、超高磁場NMR応用を目指したLTS(NbTi)-HTS(REBCO)超伝導はんだ接合について、コンパクト化のため、REBCO線材をボート型に巻いた中に超伝導はんだを
流し込んでNbTiを埋め込む接合形状を提案し、作製と評価を行った結果を報告した。REBCOの巻入れ長さ依存性については、巻入れ長さとともに接合抵抗は減少し、2 m長で四端子法による
測定限界の1nΩ以下になった。またTEM観察の結果、界面付近でREBCO層がSn層に侵食され、またREBCOの微結晶相が析出していることが確認された。


バルク作製・着磁 3C-p01-08 座長 寺尾 悠

青学大の元木(3C-p01)らは、SDMG法で作成したバルク超電導体を作成し、1 T@77 Kの環境下で着磁を行った結果を報告し、形状に依らず短時間でバルクを作成かつ良好な着磁特性を得ら
れていることを示した。
東京農工大の長谷川(3C-p02)らは、SPS法によりCoをドープしたBa122多結晶バルクの作成を行い、600℃、5分で焼結させた資料で2×104 A/cm2を超えるJcが得られたことを報告した。
産総研の石田(3C-p03)らはSPS法によりCaKFe4As4バルクの作製を行って特性を測定した結果を報告し、組成分析により不純物の析出や粒界のクラックの発生等がJc特性に影響している
ことを示した。
東京農工大の徳田(3C-p04)らは、KドープBa122多結晶バルクの特性向上のため、機械学習を活用して材料のデータベースから得られた情報を参考に合成プロセスの検討を行った結果を示した。
青学大の岩見(3C-p05)らは、Bi2223バルクに対して、高圧プレス後にP(O2) = 3 kPa以外の複数の酸素分圧条件下での焼成を行い、特性評価を行った結果を発表した。
岩手大の天瀬(3C-p06)らは、Nb3Snバルク超電導体に対し、線材製造で用いられるブロンズ法を応用してバルク作成を行った。その際に、銅の添加量を変化させることでJcB特性に違いがみられ
1 wt%の際に最も高い自己磁場Jc( = 3.4×105 A/cm2)が得られることを示した。
岩手大の内藤(3C-p07)らは、複合MgB2バルクのFCM及びPFMによる捕捉磁場特性に関して、FCM@11.3 Kで5.58 T(世界記録更新)、PFM@20 Kで1.61 Tの着磁結果が得られたことを報告した。
豊田高専の岩月(3C-p08)らは、回転機等への応用を目指し、Gd123超電導線材を積層させた界磁磁石の着磁特性評価を行った結果を報告した。